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「金持ちから多く取る」はいつ始まった?累進課税の歴史と最高税率90%の時代

「稼げば稼ぐほど税率が上がる」累進課税制度。現代では当たり前のこの仕組みですが、歴史を振り返ると、かつては最高税率が90%を超える時代もありました。この記事では、累進課税がいつ誕生し、戦争や経済政策によってどのように乱高下してきたのか、その激動の歴史を解説します。

AIアシスタント2025年12月15日9分で読める
#税金#累進課税#歴史#経済史#格差#ピケティ#所得税

「金持ちから多く取る」はいつ始まった?累進課税の歴史と最高税率90%の時代

所得が高い人ほど、高い税率で税金を支払う「累進課税(るいしんかぜい)」。 日本の所得税もこの方式を採用しており、現在(2025年時点)の最高税率は45%ですが、歴史を振り返ると、この税率はジェットコースターのように乱高下してきました。

かつては「最高税率90%超」という、今では信じられないような時代もあったのです。 なぜ累進課税は生まれ、なぜ税率はこれほど変動してきたのでしょうか? その歴史を紐解きます。


1. 誕生前夜:アダム・スミスも支持した「公平性」

古代アテネなどでも資産に応じた負担の考え方はありましたが、近代的な意味での累進課税の議論が本格化したのは18世紀以降です。

経済学の父、アダム・スミスは『国富論』(1776年)の中で、「豊かな人々は、その収入に比例して貢献するだけでなく、それ以上の割合で貢献すべきである」と述べ、累進的な負担を支持していました。

しかし、19世紀初頭までの税金の主流は、消費税や関税などの「間接税」や、土地に対する税であり、所得に対する累進課税は一般的ではありませんでした。


2. 19世紀:格差の拡大と「社会主義」への対抗

近代的な累進所得税が本格的に導入され始めたのは、19世紀後半です。背景には産業革命による貧富の格差拡大がありました。

  • 社会不安の増大: 資本家が莫大な富を築く一方で、労働者は貧困にあえいでいました。社会主義思想が広まる中、政府は「富の再分配」を行わないと革命が起きかねないという危機感を抱きました。
  • 各国の導入: プロイセン(ドイツ)やイギリスなどで導入が進みました。
  • 日本の導入(1887年): 日本でも明治20年(1887年)に所得税が導入されました。当時の税率は1%〜3%と非常に低く、対象も全人口の0.3%程度の超富裕層に限られた「名誉税」のようなものでした。

3. 20世紀前半:戦争が税率を跳ね上げた

累進課税の税率が一気に高まった最大の要因は「戦争」です。

  • 第一次・第二次世界大戦: 総力戦には莫大な戦費が必要です。政府は「国民の命を徴兵するのだから、富裕層からは富を徴収すべきだ(富の徴兵)」という理屈で、最高税率を劇的に引き上げました。
  • 最高税率90%の時代: 第二次世界大戦中から戦後にかけて、アメリカやイギリスの最高税率は**90%**を超えました。日本でも戦後の混乱期には最高税率が85%(1947年)に達しています。

【有名なエピソード】 ビートルズの曲『タックスマン(Taxman)』(1966年)の歌詞には、「君に1、僕に19(There's one for you, nineteen for me)」という一節があります。これは当時のイギリスの最高税率が95%(20シリング中19シリングが税金)だったことへの皮肉です。


4. 1980年代:新自由主義と「トリクルダウン」

戦後しばらく続いた「高税率時代」は、1980年代に大きな転換点を迎えます。経済が停滞し(スタグフレーション)、高い税率が労働意欲や投資意欲を削ぐと批判されるようになりました。

ここで登場したのが、アメリカのレーガン大統領やイギリスのサッチャー首相による**新自由主義(サプライサイド経済学)**です。

  • 大幅減税: 「富裕層や企業を減税すれば、投資が活発になり、その恩恵が滴り落ちてくる(トリクルダウン)」という理論のもと、最高税率は劇的に引き下げられました。アメリカでは70%から28%まで低下しました。
  • 日本の追随: 日本もバブル期にかけて減税を進め、最高税率は所得税・住民税合わせても50%程度まで下がりました。

5. 21世紀:再び「格差」と「増税」の議論へ

そして現在。行き過ぎた減税とグローバル化は、再び歴史的な水準まで格差を拡大させました。

  • ピケティ・ブーム: トマ・ピケティの『21世紀の資本』がベストセラーになり、「資本収益率(r)は経済成長率(g)を上回る」として、富裕層への課税強化(資産課税など)が世界的な議論のテーマとなりました。
  • 日本の現状: 日本では2015年に所得税の最高税率が40%から45%へ引き上げられ、やや「再分配」寄り揺り戻しが起きています。しかし、富裕層の多くは株の売却益(分離課税で約20%)で稼いでいるため、実質的な負担率は低いままという「1億円の壁」問題が新たな課題となっています。

まとめ:歴史は「公平」と「活力」の間で揺れ動く

累進課税の歴史は、**「公平(格差是正)」「活力(経済成長)」**のどちらを重視するかという、振り子の動きそのものです。

  1. 格差是正のために導入され、戦争で強化された(〜1970年代)
  2. 経済活力を取り戻すために減税された(1980年代〜)
  3. 再び開いた格差を是正するために強化論が出ている(現在)

今後、少子高齢化で財源が必要となる中で、この振り子がどちらに振れるのか。累進課税のあり方は、これからの社会の形を決める重要な鍵を握っています。

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