一人法人(IT・エンジニア)の経費はどこまで?PC・社宅・交際費の判断基準
フリーランスから法人化したITエンジニアが、会社の経費にできるものとできないものを整理。30万円未満のPCを一括で落とせる特例(年間300万円まで)、役員社宅の仕組みと賃貸料相当額、1人1万円以下の飲食費が交際費から外れるルールまで、国税庁の公表内容に沿って解説します。
一人法人(IT・エンジニア)の経費はどこまで?PC・社宅・交際費の判断基準
一人法人(マイクロ法人)の経費で判断が分かれるのは、「事業に関係があると説明できるか」という一点です。 PCやサーバー代のように明確なものから、役員社宅や交際費のように制度の要件を満たす必要があるものまで、線引きの根拠はそれぞれ異なります。
IT開発業は仕入れ(在庫)がないぶん利益が出やすく、経費の扱いがそのまま手残りに直結します。この記事では、ひとり社長のIT開発会社を前提に、基本的な経費から、制度上の要件がある社宅・交際費、そして否認されやすいものまでを整理します。
1. 開発業務に直結するもの
ここは判断に迷う余地が少ない部分です。漏れなく計上しましょう。
① ハードウェア・ガジェット類
- PC・モニター: 開発用の高スペックPC、モニター、検証用スマホ、タブレットなど。
- 周辺機器: キーボード、マウス、作業用チェアなど。長時間作業するエンジニアにとっての設備です。
30万円未満なら一括で損金にできる特例があります。 青色申告書を提出する中小企業者等(常時使用する従業員500人以下など)が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得して事業に使った場合、その取得価額を損金に算入できます(少額減価償却資産の特例)。
ただし、次の点に注意してください。
- 年間の合計額に300万円の上限があります。 その事業年度の少額減価償却資産の取得価額の合計が300万円を超える場合、300万円に達するまでの分が対象です(事業年度が1年未満の場合は月数按分)。
- 適用期限があります。 国税庁 No.5408(令和7年4月1日現在法令等)では、令和8年3月31日までに取得などして事業の用に供したものが対象とされています。この特例は過去に延長が繰り返されてきた経緯があるため、現時点の適用期限は国税庁の最新情報で必ず確認してください。
② ソフトウェア・SaaS・クラウド費用
AWS/GCP/Azureなどのサーバー代、GitHub、JetBrains、各種API利用料、Adobe CC、Slack、Zoomなど。ドル建てのものが多いため、為替の影響を含めてカードの明細を整理しておきましょう。
③ 通信費・ネット環境
自宅兼事務所の場合、業務で使用する割合(按分)を経費にできます。按分の根拠(使用時間・面積など)を説明できるようにしておくことが重要です。
2. 制度の要件を満たせば使えるもの
④ 役員社宅
賃貸住宅に住んでいる場合、会社名義で契約し、社宅として社長に貸す形をとる方法です。ただし「会社が家賃を払えば全額経費」という単純な話ではありません。
仕組みはこうです。会社が支払う家賃は会社の費用になりますが、役員から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取っていないと、その差額が役員への給与として課税されます。
賃貸料相当額は、社宅の床面積などによって計算方法が決まっています。
- 小規模な住宅(法定耐用年数30年以下なら床面積132㎡以下、30年超なら99㎡以下)の場合、次の合計額が賃貸料相当額です。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
- 小規模な住宅でない借上げ社宅の場合、会社が家主に支払う家賃の50%と、所定の算式で計算した額のいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
小規模な住宅に当たる場合、賃貸料相当額は実際の家賃よりかなり低くなることが多く、結果として家賃の相当部分を会社負担にできます。これが「社宅が有利」と言われる理由です。
注意点は次のとおりです。
- 入居者が直接契約している場合の家賃負担や、現金支給の住宅手当は社宅の貸与と認められず、給与として課税されます。 必ず会社契約にする必要があります。
- 床面積240㎡超などのいわゆる豪華社宅は、この算式の対象外です。
- 賃貸料相当額の計算には固定資産税の課税標準額が必要です。
詳細は国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき を確認してください。
⑤ 出張手当(日当)
旅費規程を整備すれば、出張の際に日当を支給できます。会社の費用になり、受け取る側も一定の範囲であれば所得税がかかりません。金額の妥当性や規程の整備が前提になるため、導入時は税理士に確認しましょう。
⑥ 経営セーフティ共済(倒産防止共済)
掛金月額5,000円〜20万円(年最大240万円)を損金にしながら、掛金残高800万円まで積み立てられる制度です。ただし解約時の解約手当金は全額が益金になるため、出口とセットで考える必要があります。詳しくは経営セーフティ共済とは?を参照してください。
3. 交際費:1人1万円以下の飲食費は交際費から外れる
一人法人のような資本金1億円以下の法人は、交際費等のうち年800万円までを損金にできます(定額控除限度額。接待飲食費の50%相当額との選択制)。
見落とされやすいのが、そもそも交際費等に含まれない飲食費があることです。
飲食等のために要する費用であって、支出金額を参加者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用は、交際費等から除かれます。(令和6年3月31日以前に支出されたものは5,000円以下)
つまり、取引先との会食で1人あたり1万円以下なら、そもそも交際費等の枠を消費しません。ただし、これは次の事項を記載した書類を保存している場合に限り適用されます。
- 飲食等のあった年月日
- 参加した得意先・仕入先等の氏名または名称および関係
- 参加した者の数
- 費用の額、飲食店等の名称および所在地
- その他必要な事項
なお、専ら自社の役員・従業員やその親族に対する接待等のための飲食費は、この除外の対象になりません。ひとり法人で「社長ひとりの食事」を交際費にできない理由はここにあります。
詳細は国税庁 No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算 を確認してください。
4. 判断が分かれるもの:説明できるかどうか
- 技術書・オンライン講座: 業務に必要なスキル習得であれば、新聞図書費・研修費として計上できます。
- 最新ガジェット(VR機器・ドローンなど): 趣味とみなされやすい領域です。「該当分野の案件を受注するための検証用」といった事業上の必要性を、検証記事や提案資料などの形で残しておくことが重要です。
判断の軸は一貫して「その支出が売上を作るために必要だったと説明できるか」です。
5. 否認されやすいもの
- 家族との外食: 会議の名目でも、実態が伴わなければ認められません。前述のとおり、専ら役員・従業員やその親族に対する飲食費は交際費等の除外規定の対象外です。
- スーツ・眼鏡: 業務専用とは言いにくく、基本的に認められません。
- 個人的なジム会費: 福利厚生とするには要件があり、ひとり法人では認められにくい領域です。
まとめ
- 30万円未満の資産は一括損金にできるが、年間300万円の上限と適用期限がある。
- 役員社宅は「会社契約」かつ「賃貸料相当額以上を役員から受け取る」ことが前提。受け取らなければ差額が給与課税。
- 交際費は年800万円までだが、1人1万円以下の飲食費はそもそも交際費等から除かれる(書類の保存が要件)。
経費と並んで手残りを大きく左右するのが役員報酬の設定です。報酬を上げれば法人の所得は減りますが、個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。会社の利益額に応じた最適なバランスは役員報酬シミュレーターで試算できます。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき
- 国税庁 タックスアンサー No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
- 中小機構 経営セーフティ共済とは
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。経費の可否は事業内容や支出の実態により異なります。具体的な判断は顧問税理士にご相談ください。