税金

日本の累進課税:なぜ所得が多いほど税率が上がるのか?その根拠と役割

日本の所得税や相続税などで採用されている「累進課税」。「なぜ所得が高い人ほど高い税率で税金を払うのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。本記事では、この累進課税の基本的な仕組みとその根拠となる考え方、日本社会における役割、そして現代における課題について分かりやすく解説します。

AIアシスタント2025年7月13日7分で読める
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日本の累進課税:なぜ所得が多いほど税率が上がるのか?その根拠と役割

私たちの身近にある税金の中で、最も代表的なものの一つが所得税です。この所得税や相続税など、日本の主要な税目では「累進課税制度」が採用されています。「所得が高い人ほど税率が高くなり、より多くの税金を払う」というこの仕組みは、一見すると不公平に思えるかもしれません。

しかし、累進課税には明確な根拠と、社会における重要な役割があります。本記事では、日本の税制における累進課税の基本的な仕組みと、その根拠となる考え方、そして現代社会における役割と課題について分かりやすく解説します。


1. 累進課税とは?その基本的な仕組み

累進課税とは、課税対象となる所得や財産の金額が増えるにつれて、適用される税率も段階的に高くなる税率構造のことです。

例えば、日本の所得税では、課税所得の金額に応じて5%から45%までの7段階の税率が設定されています。

課税所得の金額所得税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%9万7,500円
330万円超 695万円以下20%42万7,500円
695万円超 900万円以下23%63万6,000円
900万円超 1,800万円以下33%153万6,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%279万6,000円
4,000万円超45%479万6,000円

(※復興特別所得税として、上記所得税額の2.1%が加算されます。)

この表からもわかるように、課税所得が増えれば増えるほど、その増えた部分にかかる税率が高くなる仕組みです。


2. 累進課税の根拠となる2つの考え方

累進課税の主な根拠は、以下の二つの原則に基づいています。

2-1. 応能負担の原則(Ability-to-Pay Principle)

これは、「税金は、その人が担う能力に応じて負担すべきだ」という考え方です。所得が高い人ほど、生活に必要な最低限の支出を賄った後にも余裕があると考えられます。そのため、より多くの税金を負担する能力があるとして、高い税率を適用することが公平であるという根拠になります。

例えば、年収300万円の人が10万円を失うのと、年収1,000万円の人が10万円を失うのとでは、経済的な痛みや生活への影響が異なります。所得が高い人にとっての「1円の価値」は、所得が低い人にとっての「1円の価値」よりも相対的に小さい(限界効用逓減の法則)という経済学的な考え方も背景にあります。

2-2. 所得再分配機能

累進課税は、所得格差の是正という重要な役割も担っています。高所得者からより多くの税金を徴収し、それを教育、医療、社会保障、インフラ整備などの公共サービスに充てることで、低所得者層を含む社会全体の福祉を向上させることができます。

これにより、富の偏りを緩和し、社会全体の所得格差を是正する効果が期待されます。現代社会では、経済活動の自由度が高まるにつれて所得格差が拡大する傾向にあるため、この所得再分配機能は社会の安定を保つ上で不可欠であると考えられています。


3. 日本社会における累進課税の役割と課題

日本において累進課税は、前述の応能負担と所得再分配の原則に基づき、公平な税負担と社会の安定に寄与してきました。

役割

  • 税負担の公平性の確保: 所得の多い人が相応の負担をすることで、税負担の公平性を保ちます。
  • 社会保障制度の維持: 高齢化が進む日本において、年金や医療、介護といった社会保障制度の重要な財源となっています。累進課税によって徴収された税金が、これらの公共サービスの維持に貢献しています。
  • 社会の安定化: 所得格差が極端に拡大すると、社会不安や経済の不安定化を招く可能性があります。累進課税は、その格差をある程度緩和し、社会の安定に寄与します。

現代における課題

しかし、累進課税制度にも課題がないわけではありません。

  • 勤労意欲の阻害: 高い所得に対する税率が高すぎると、頑張って働いて所得を増やそうとする意欲(勤労意欲)や、企業が利益を追求する意欲を削ぐ可能性があるという批判があります。
  • 富裕層の国外流出: 税率が高いことを理由に、資産家や高所得者が税負担の低い国へ移住したり、タックスヘイブンなどを利用した租税回避行動が増えたりするリスクがあります。
  • 税制の複雑化: 各種控除や特例が組み合わされることで、税制全体が複雑になり、一般の人々にとって理解しにくくなるという側面もあります。
  • 富裕層の課税逃れ問題: 給与所得には累進課税が適用される一方で、金融所得には一律分離課税が適用されるなど、課税ベースの違いから、高所得者層が必ずしも高税率を負担していないという指摘もあります。

まとめ

日本の税制における累進課税は、「所得が多い人ほど多く負担すべき」という応能負担の原則と、所得格差を是正する再分配機能という明確な根拠に基づいています。これは、私たちが住む社会を維持し、誰もが最低限の生活を営めるようにするための重要な仕組みです。

一方で、勤労意欲の阻害や富裕層の国外流出といった課題も抱えており、政府は常に経済状況や社会情勢を見ながら税率や制度の調整を行っています。累進課税は、社会の公平性と活力を両立させるための、終わりのない議論と調整の対象と言えるでしょう。この制度の意義と課題を理解することは、より良い社会のあり方を考える上で不可欠です。

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